驚異の0.8mm:その腕時計の文字盤は、「破損の危機」を冒して作られている

ドイツ・ザクセン州には、世界を代表する二大ブランドが存在します。一つはマイセン(Meissen)の名で知られる高級磁器工房、もう一つはグラスミュレ(Glashütte)の精密時計です。
今年、この二つの伝統あるブランドが久々にタッグを組み、驚くべき3種の特別限定モデルを発表しました。その名も「センテナー・マイセン(Senator Meissen)」。グラシュッテ・オリジナル(Glashütte Original)の180周年と、マイセン磁器の315周年を記念したこのコラボレーションは、単なる装飾以上の「技術的挑戦」であることを、あなたはご存知でしょうか?
焼成合格率はわずか5%:文字盤界の「幻」
時計ファンの間で高級文字盤といえば「エナメル(珐琅)」が挙げられますが、マイセンが手掛ける「セラミック文字盤(瓷质表盘)」はそれとは全く異なります。
その工程は極めて過酷です。
極薄成型:まず、文字盤は驚異的に0.8mmという薄さに成型されます。
素焼き:恒温室内でじっくり乾燥させた後、900℃のガス窯で素焼き。
選別:ここで合格率はわずか5%にまで絞られます。それ以外の欠点品は全て廃棄。一つの完成品を得るためには、数十枚の犠牲が出るのが現実です。
釉薬と彩絵:選ばれた無瑕のベースに、透明ガラス釉や青磁釉を施し、さらに1400℃の高温で釉焼。その後、天然鉱物顔料による手描き彩絵を施し、再び焼成します。
この12〜15工程に及ぶ全工程が熟練工の手作業で行われるため、大量生産は不可能。まさに「幻の文字盤」といえるでしょう。
三種の「神秘なる紋様」
今回発表された3モデルは、いずれも18Kレッドゴールドケース(40mm)に、Cal.36自動巻きムーブメント(100時間パワーリザーブ、シリコン遊絲)を搭載。その中核となる文字盤のデザインは、以下の通りです。
「神秘の館(Mystic Maison)」ホワイトモデル(各150本限定)
デザイン:ロココ調のドレスデン宮廷を彷彿とさせる装飾紋様。
技術:1716年にマイセンで開発された「黒絵具(Black Color)」を改良し、現代に蘇らせたものです。
「神秘の館」ブルーグリーンモデル(各150本限定)
デザイン:1726年に誕生した伝統の「青磁緑(Celadon Green)」をベースに、洛可可調の巻き貝模様を浮かべます。
「百花繚乱(繁花锦绣)」モデル(たった8本限定・完売)
デザイン:これはもはや「奇跡」の逸品です。表盤には、日本の「柿右衛門風」の岩梅鳥、「ブルンズドーフ風」の果物と牡丹、そして「バロック風」の青花魚が、見事に調和して描かれています。
難易度:異なる顔料はそれぞれ最適な焼成温度が異なります。そのため、この一枚の文字盤を仕上げるためには、4〜6回もの焼成工程を繰り返さなければなりません。この極めてデリケートな工程のため、わずか8本という超限定での発表となりました。
編集部の視点
グラシュッテ・オリジナルの「センテナー」は、ドイツ製時計の堅牢さと精緻さを体現したモデルです。そこにマイセン磁器が持つ「脆さと美しさ」が融合することで、従来の金銀メッキ文字盤では決して味わえない、「生きた質感」が生まれます。
マイセンの絵付け師は、絵筆を握る40年のキャリアを持つ大師匠。その手によって描かれたローマ数字や装飾は、光の当たり具合で異なる表情を見せ、まさに「腕時計は身に着ける美術品」であることを教えてくれます。
スペックまとめ
モデル名:Senator Meissen(三種)
ケース:18K レッドゴールド、40mm、防水5気圧
ムーブメント:Cal.36-16(100時間駆動、シリコン遊絲)