カルティエ ロンドンのタンク、そして素晴らしいヴィンテージモバード

ルイ・ヴィトンの最新タンブールやタグ・ホイヤーの新作フォーミュラ1 クロノグラフなどをスクロールしてチェックしつつ、Bring A Loupeは週末の読書時間のために取っておくのだ。もっともこのままここに留まって、インターネットで販売されている最高のヴィンテージウォッチを今すぐ楽しむのもありだ!

前回のコラムを振り返ると、英国ではロレックス ビッグバブルバック “プレエクスプローラー” Ref.6098が2200ポンド(日本円で約40万円)で落札され、1970年製のホイヤー カレラ Ref.7753 NTは3600ポンド(日本円で約70万円)の値がつけられた。私が特に気に入っているロンジン クロノグラフ 13ZN、Ref.5415はこちらのオークションにかけられるが、事前入札では4250ドル(日本円で約65万円)となっている。最後にeBayでは、フランソワ・ボーゲル製の防水ケースを採用したミドーが540ドル(日本円で約8万3000円)で新しいオーナーの手に渡った。

それでは今週のピックを見ていこう!

ロレックス GMTマスター Ref.6542、1958年製
ああ、ついにRef.6542のGMTマスターが登場だ。このモデルはロレックスをスポーツウォッチのスターダムに押し上げた原点だ。1955年に初めて発表され、今年で70周年を迎えるこのモデルは、何十年ものあいだほかのブランドに模倣されてきた普遍的なデザインとなっており、現行モデルである“ペプシ”GMTマスター IIともよく似ている。このRef.6542のベークライトベゼルが決定的な特徴だが、それが原因で製造中止となった。このベゼルは割れやすく、アルミニウム製の後継モデルよりもはるかに壊れやすかったため、当時はしばしば交換されていたのだ。さらにこのベゼル内のラジウム放射能が原因で、1961年には“Ref.6542によってガンを発症した”として、米海軍将校とその家族がロレックスを訴えた。その結果、ロレックスはこのベゼルを“リコール”したのだ。とはいえ、ここに紹介しているようなオリジナルの状態のものを今見つけるのは、ほぼ不可能に近い。

オリジナルのベゼルを備えていることに加え、この時計の状態はまさに衝撃的だ。写真しか頼りにならないウェブサイトを読む煩わしさはよくわかるが、この状態の1950年代のロレックスは実物を見てこそその本当の価値が理解できる。これほどのケースのシャープさは、ほとんど筆舌に尽くしがたい。

卓越したコンディションについてさらに言えば、この文字盤はトロピカルな色合いを少し見せており、全体的に均一である。完全にトロピカルな文字盤も魅力的だが、このロレックスのようなギルトダイヤルが黒と茶色の中間に位置する場合、その見た目はより控えめでありながら、同じくらい魅力的だ。

6542の生産後期に、ロレックスが実験的に大きな夜光プロットの文字盤を製造したのだが、この1958年製の時計は本来の小さな夜光プロットを備えており、少なくとも時期的に正しいロレックスの“ビッグロゴ”を備えたオイスターブレスレットで提供されている。売り手によると、この時計は市場に出たばかりであり、南カリフォルニアで発見されそのあとしばらく放置されていたそうだ。それから簡単なメンテナンスと風防の交換を受けており、新しい所有者を見つける準備ができているとのことだ。

売り手であるダイヤル・バック・ヴィンテージのジョンは、この素晴らしいGMTマスターを“価格応相談”として出品している。価格をリクエストしたところ、16万ドル(日本円で約2460万円)という妥当な価格だった。詳細はこちらから。

カルティエ ロンドン タンク ルイ カルティエ “スモール”、“ウーブン”ブレスレット、1972年製
1960年代と1970年代にカルティエ ロンドンの工房でつくられた作品は、これまで製造された時計のなかでもお気に入りの部類だと断言する。そのすべてを支えたのはジャン=ジャック・カルティエ(Jean-Jacques Cartier)だ。彼は第2次世界大戦後、父親の跡を継いでカルティエ ロンドンを経営し、1960年代初頭にはメイド・イン・パリの時計を輸入し続けるのではなく、ロンドンで腕時計の製造を始めることを決めた。時計はひとつひとつ手作業でつくられ、そのデザインはマキシ オーバル、クラッシュ、ぺブルなど、“活気あふれる60年代”のロンドンならではのものだった。

この特別なカルティエ ロンドンに焦点を絞ると、タンクLC(厳密に言えば、ジャン=ジャック・カルティエのタンクJJC)が挙げられる。これはカルティエのこの部門が提供する“最小”の“スモール”サイズである。1969年にパリで発売された23mm×15.5mmの“ミニ”ほど小さくはないが、ロンドン製のスモールは26mm×19mmで、小ぶりながら過剰な主張をしないサイズ感だ。

この個体は誕生の地でオークションにかけられるが、私の目を引いたのはそのブレスレットだ。カルティエ ロンドンの時計はどれも希少で興味深いものだが、ブレスレットを採用したものは本当に特別だ。昨年フィリップスにて27万9400ドル(日本円で約4300万円)で落札されたブレスレット仕様のマキシ オーバルを思い出す。また、数週間前にはマイアミビーチ アンティークショーでダビデ・パルミジャーニ(Davide Parmigiani)氏のブースに同じものが展示されていた。このブレスレットを採用したロンドンLCを以前に見たことがあったので、この時計は私の記憶を呼び覚ました。2023年12月、クリスティーズがこれと同じ時計の“ラージ”バージョンを出品し、それは最終的に4万7880ドル(日本円で約740万円)で落札されたのだ。

このカルティエは、2025年2月5日水曜日午前5時(東部標準時)に開催されるローズベリーズ・ロンドン主催のWatches & Luxury Itemsオークションのロット54として出品される。事前予想価格は1万~1万5000ポンド(日本円で約190万~290万円)となっている。こちらをクリックすると、このロットを見ることができる。

追記:ベニュワールがお好みなら、ロット55をご覧いただきたい。これは純正のDバックルを採用した、サイズ感が絶妙なロンドン製の時計だ。

モバード フランソワ・ボーゲル製の防水ケースにブラックダイヤル仕様、1950年代製
Bring A Loupeでモバードを取り上げるのは実に2週間ぶりだが、これは本当に注目すべきことだ。それだけヴィンテージ時代のモバードに対する私の愛は抗えないものであり、もし優れた時計がeBayで魅力的な価格で出回り続けるのであれば、私は自分用に購入するか、ここに掲載し続けることを余儀なくされるだろう。

ここにあるのは、理想的な条件を備えた1950年代後半につくられた3針のモバードである。その理由を説明しよう。ケースはこの時代最高の防水ケースメーカーで、パテック フィリップやヴァシュロンなどに供給していた、偉大なるフランソワ・ボーゲルのものだ。直径は33mmで、ルイ・ヴィトンの新しいタンブール コンバージェンスに見られるものと本当によく似た興味深いラグが特徴となっている。文字盤は、数字のフォントからもわかるように、シュテルン・フレール製と見て間違いない。これは数週間前にここで紹介したロレックスと同じ数字フォントであり、パデローン Ref.8171に見られるものだ。さらに文字盤はブラックである。黒文字盤のヴィンテージモバードはきわめて希少なのだ。いや、常時数本が売りに出されているのを見つけることはできるが、そのほとんどは黒く塗り直されたものだ。ここで紹介するのは、本物のオリジナルである。

最後にムーブメントについて触れよう。これは1956年から1960年にかけて製造された、モバードの“Cal.431 フルローターオートマチック”である。当時、モバードはすべてのムーブメントを自社で製造しており、自動巻きキャリバーにはかなり早くから取り組んでいて、そのほとんどは“バンパー”式のオートマチックであった。431はモバードの自動巻き開発の集大成であり、同社がこれまでに製造したなかで最高の3針時計のムーブメントと言えよう。