チューダーによる現代的ダイバーズウォッチの多彩で興味深いラインナップへと進化している。そう、ペラゴスの話である。その呼び方がペラゴスでもペラゴースでも、このシリーズはいまや無数のバリエーションへと広がり、なかにはもはやダイバーズウォッチとは言えないモデルも存在する。しかし今年のWatches & Wondersでチューダーは、ペラゴスのダイビング志向を改めて強調し、新たなハイスペックモデルのペラゴス ウルトラを発表した。
tudor pelagos ultra
ペラゴスが2012年のバーゼルワールドでデビューして以来、自分がこれほどまでに取り上げてきた時計のシリーズは、チューダーのこのチタン製ダイバーズ以外に思い当たらない。メキシコではペラゴス 500m ブルーとともに潜り、(カナダ・)トバモリーではジェイソン・ヒートンと大規模なダイビング企画のなかで撮影しながら500mモデルを取り上げた。ペラゴス 39は入手可能になった瞬間に購入したし、FXD ブラックの発表時にはフロリダで沈没船に潜った。振り返ってみると、過去13年間に登場したすべてのバリエーションを網羅してきたと言っても過言ではないだろう。
two 500m tudor pelagos
チューダースーパーコピー時計 激安オリジナルのチューダー ペラゴス 500m、LHD(左)とブルー(右)。
diving a wreck wearing a pelagos
僕がフロリダでペラゴス FXD ブラックとともにダイビングしている様子。
the tudor pelagos 39
レビューのために届けられたペラゴス 39。
このモデルが初めて登場したときから、僕の友人ジェイソン・ヒートンは“ダイバーズウォッチ界の頂点捕食者”と称してきた。そして今、10年以上の歳月を経て、その頂点に新たな“野獣”が現れた。それはチューダーの最新のMETAS認定ムーブメントを搭載し、ペラゴスとしては初となる1000mの防水性能を備え、巨大な夜光マーカーと針、ベゼルの目盛り、ヘリウムエスケープバルブ、そしてペラゴスの代名詞ともいえるセルフアジャスト機構付きクラスプを装備したものだ。まさに筋金入りのペラゴスでありながら、すべてが“特別仕様”なのだ。そして何がいちばん素晴らしいか? 初代ペラゴスと同じ感覚でつけられて、500mモデルよりたった10万7800円高いだけなのだ。
少し視野を広げてみると、ペラゴス ウルトラをめぐるチューダーの戦略、つまりより高スペックなダイバーズウォッチをどう構築するかという文脈において、その背景を押さえておく価値がある。一般的な戦略としては、極端なスペックに振り切るというものがある(たとえば、オメガの6000m防水のプラネットオーシャン ウルトラディープや、ロレックス自身のディープシーチャレンジはその代表例で、こちらは驚異の1万1000mもの防水性を誇る)。こうしたモデルでは、途方もない性能を実現する代償として、装着性が大きく犠牲になっている。僕自身、オメガとロレックスの超深海ダイバーズを両方試したことがある。どちらも驚くほどクールであり技術的にもエンジニアリング的にも見事な成果だ(ロレックスにいたっては、ディープシーチャレンジの防水性能を試験するために、専用の機械まで開発している)。でもどちらも一般的な腕時計のようにはつけられない。少なくとも、僕の手首ではそうだった。
たとえるなら、地元の街中をダンプカーで走るようなものだ。目立つし、確かにかっこいいけれど、いざ駐車しようとしたりドライブスルーに入ったり、子どもをサッカーの練習に送っていくとなるともう少し普通のクルマにしておけばよかったと思うはずだ。
Rolex deepsea challenge
真の“トップスペック”ダイバーであるロレックス ディープシーチャレンジは、1万1000mもの防水性能を誇る(もっとも、これに対応できる手首が必要。僕の手首では無理だ)。
というのも人生の多くのことと同じく、ダイバーズウォッチの設計にもスペクトラム、つまり幅が存在するからだ。深海の過酷な環境に耐えられるようにすればするほど、その時計はダイビング以外の用途には向かなくなっていく。この記事を読んでいる人の多くは、おそらくダイバーではないだろう。仮にそうだったとしても、現代のダイバーズウォッチに200m以上の防水性能が本当に必要だという人は、まずいないと僕は思っている。
tudor pelagos ultra
ダイバーではない方のために、いくつか強調しておきたいポイントがある。まず、レクリエーショナルダイビングの最大深度は40mだ。400mでも、4000mでもない。もしそれ以上の深さに潜っているなら、それはテクニカルダイバーという全体の1%に満たない特殊な人々のひとりであるか、ダイブプランに重大なミスがあるかのどちらかだ。さらに言えば、仮に40mを超えて潜ることがあったとしても、テクニカルダイビングでさえその多くは75mを超えることはほとんどない(もちろん可能ではあるが、それはダイビングのなかでも最も極限に近い領域の話である)。
つまり飽和潜水をしない限りヘリウムエスケープバルブが不要なのと同じように、あなたも僕も、そして地球上の70億人以上のほとんどすべての人にとって、500mや1000m、あるいは一般的なダイバーズウォッチが備える200mの防水性能すら必要ないということ。完全にオーバースペックなのだ。もちろん、それが魅力的で楽しい“過剰さ”であることは間違いない。でもその性能が実際に役立つ場面なんてまずないのだ。
tudor pelagos ultra
この話を最初に片づけておきたかったのは、僕の視点からすると、ハイスペックなダイバーズウォッチの世界というのは結局のところ“楽しむためのもの”だからだ。それは僕たちのような夢想家をクストーやバース、ウォルシュ、アール、キャメロン、バレスタ、そしてヴェスコヴォといった探検家たちと結びつけてくれる存在だ。深海という未知の世界を思い出させてくれるし、“目的のための道具”という考え方が全盛だった時代の腕時計を象徴している。でも今の時代、その道具は必要とされていないし、その目的ももはや実務的な意味を持っていない。僕たちの多くにとって、これは職業というより趣味であり楽しみの対象にすぎないのだ。
フラッグシップ級のダイバーズウォッチには、いくつかのアプローチがある。ロレックスやオメガのようにスペックの極限を追求する道もあれば、そのスペクトラムの中間に位置する選択肢もある。たとえばジンやチューダーのようなブランドの日常使いできるハイスペックダイバーズは、極限の魅力をしっかりと備えながらも、たとえ潜水の予定がなくてもマリアナ海溝への遠征に出るつもりがなくても、毎日つけて楽しめる時計として成立している。
Tudor Pelagos Ultra
そして、海の最深部まで到達できる時計に込められた精神には共感するし、むしろ称賛すべきものだと思っている。でもそんな時計を自分の手首に巻きたいかと言われれば、答えはノーだ。もちろん、ペラゴス ウルトラのスペックは比較的控えめだ。1000mという防水性能は特別珍しい数値ではない。しかし、装着感もまた“控えめ”であることが魅力なのだ。ウルトラはペラゴスらしいつけ心地で、特別な工夫や妥協を必要としない。そういった意味で、ウルトラは今では姿を消したロレックス シードゥエラーの戦略をなぞっているとも言える。シードゥエラーはもともと、サブマリーナーのハイスペック版として1967年に市場に登場したモデルだった。当時、サブマリーナーのRef.5512や5513が200m防水だったのに対し、Ref.1665 シードゥエラーは610m(2000ft)という大幅なスペック向上を実現していた。
2008年にRef.116660 シードゥエラー ディープシーが登場し、その驚異的な3900mの防水性能を実現するまでは、シードゥエラーは“ハイスペックな選択肢”としての位置づけを担っていた。サブマリーナーとディープシーのあいだにあるような大きな隔たりとは異なり、かつてのシードゥエラーは装着性に関してわずかな妥協(ケースがやや厚い、風防がやや重厚、といった程度)で、より高い性能を提供していたのだ。
話をチューダーに戻すと、ウルトラはペラゴスに対するシードゥエラー的アプローチを体現していると言える。基本的なサイズ感はほぼそのままに、METAS認定ムーブメントを搭載し、防水性能をさらに高めてさらに視覚的なインパクトも強めているのだ。
tudor pelagos ultra
Watches & Wondersの会場で、ブレスレット仕様とラバーストラップ仕様の両方をじっくりと1時間近く試すことができたので、ここは簡潔にまとめようと思う。もしあなたが僕のようにペラゴス 39のサイズ感を強く好んでいるとか、ブルーダイヤルやLHDをどうしても欲しい(これらは500mモデルにしかない)のでなければ、フルスペックのペラゴスを探している人にとってウルトラは間違いなく最有力の選択肢になる。本当に、文句なしにすばらしい時計だ。
僕の7インチ(約17.8cm)の手首において、ウルトラの装着感はスタンダードな42mmモデルと非常によく似ている。これは小さな時計だとか、思ったより小さくつけられるなんて言うつもりはまったくない。500mバージョンは長くラインナップに存在しているので、ぜひ1度試着してみて欲しい。そうすれば装着感の95%はつかめるはずだ。決して小振りな時計ではないし、つけたときに小さく感じる時計でもない。ただし、サイズのわりに非常によく収まるモデルであり、もし500mバージョンが手首にフィットするならこのウルトラがつけづらいと感じることはまずないだろう。より小さいものを求めるなら、ペラゴス 39はいまでも僕のお気に入りだ。でも今回の話はそういうテーマではない。
tudor pelagos ultra
ウルトラは、ペラゴスというコンセプトにとって真のフラッグシップと呼ぶにふさわしい存在に感じられる。そのデザインはまるでストップサインのような視覚的インパクトを放ち、時刻の読み取りも抜群にしやすい。自分の手首はもちろん、部屋の向こう側にいる誰かの腕に巻かれていても時間がはっきりとわかるほどだ。チタンケースは軽量で手首上のバランスもよく、60クリックのベゼル操作は実に心地よい。文字盤とベゼルはフルルミノバ仕様で、BGW9ブルーとX1グリーンの2色を用いた発光は見ていて本当に楽しい。フラッシュを1度焚いただけで、ウルトラの夜光が僕のペラゴス 39よりも明るく、そしてムラなく発光していることがわかった。
ペラゴス 500mのオーナーであれば誰もが、このモデルの大きな魅力のひとつとしてブレスレットの存在を挙げるだろう。そしてウルトラはその要素をさらに高みに引き上げている。あのセルフアジャスト機構付きフォールオーバークラスプを、そのまま継承しているのだ。“T-fit”システムにより、ウルトラのクラスプには4mmのマイクロアジャスト、14mm分のスプリングセット調整、そして最大約25mmまで伸ばせるダイビングエクステンションが備わっている。そしてオリジナルからのアップデートとして特に楽しいのが、クラスプ内に仕込まれた夜光表示だ。スライドするインジケーターが、各エクステンションポイントやダイビングエクステンションへの移行を示す目盛りの上を動く構造になっており、その目盛り部分が発光する。クラスプに夜光だって? だから言っただろう。この時計は楽しむためのものなのだ、と。
tudor pelagos ultra
そういうわけで、この新しいモデルはブレスレット、ラバーストラップ、そしてラバー製のウェットスーツ用エクステンションがセットになった単一仕様で展開されている。要するに、これはペラゴス・エクストラとも呼べる存在だ…でも、ここではウルトラと呼ぶことにしよう。
この新モデルの内部には、2012年の初代ペラゴス(当初はETAムーブメントを搭載し、2015年に自社製ムーブメントへ移行)からの大きなアップデートのひとつとして、チューダーのMT5612-Uが搭載されている。このムーブメントはCOSCおよびMETASの両認証を取得した自動巻きクロノメーターで、日差は0〜+5秒以内、振動数は2万8800振動/時(4Hz)、パワーリザーブは約65時間を誇る。僕としてはシンプルで信頼性のあるETAムーブメントでも十分に満足できるけれど、この価格帯であればMT5612-Uのようなスペックはもはや期待されるべき標準と言っていいだろう。せっかく“自社製”を名乗るなら、パワーリザーブの延長や、遥かに高精度な時間管理といったメリットは欲しいところだ。価格がスタンダードなペラゴスと比べてわずかに上がっただけであることを考えれば、このムーブメントは500mモデルとウルトラのどちらを選ぶか迷っている人にとって、非常に大きな魅力になるはずだ。
tudor pelagos ultra clasp
ペラゴス ウルトラに搭載された、あのトリッキーなセルフアジャスト機構付きクラスプの内部構造。
さて、価格について触れておくと、ペラゴス ウルトラの販売価格は83万9300円(税込)。これは500m防水のペラゴスより10万7800円高い設定だ。これがお買い得だとか業界を揺るがす価格設定だなんて言うつもりはないけれど、2025年という今の時代において、フラッグシップとしてのペラゴスに課される価格の上乗せとしては、十分に受け入れられる範囲に感じられる。
ウルトラと500mモデルで迷っている人にとって、主な見た目の違いとしてまず挙げられるのは、“PELAGOS”の文字に使われたライトブルーの印字だ。またウルトラはペラゴス 39と同様に、カットアウト仕様の見返しリングを採用していない点も特徴だ(個人的には、どのモデルやスペックであれこの仕様が省かれるのは残念に思っている)。代わりに、より一般的なミニッツスケール付きの見返しリングが用いられている。さらに文字盤上の表記も少なくなっており、ウルトラでは情報が3行に抑えられているのに対し、スタンダードモデルでは5行の表記がある。総じて、ウルトラは既存のコアモデルの進化系というよりもペラゴス 39のサイズアップ版のような見た目に近い印象を受ける。
tudor pelagos ultra
要するに(1000語以上語っておいてなんだけど)、もしあなたがペラゴスを検討していて、より本格的なプロスペックダイバーとしての体験を求めているなら、ウルトラはスタンダードモデルを大きく上回っている。スペックは向上していてプロポーションはほぼ同等、ムーブメントはアップグレードされ、価格の上昇は約14.7%にとどまっている。仮に500mモデルで実質的な割引が手に入らないのであれば、ウルトラを選ぶのが正解じゃないだろうか?
僕にとってペラゴスといえば、やっぱり39が一番のお気に入りだ。でももしほかのモデルを自分のために選ぶとしたら、ウルトラは一気にリストの最上位に躍り出る。巨大で屈強、海底に挑むようなダイバーズのコンセプトには心引かれるけれど、僕は自分の現実主義には逆らえない。僕のダイバーズウォッチには、人生のあらゆる場面にフィットして欲しいのだ。陸の上でもオフィスでも飛行機のなかでも、ちゃんと機能してくれる必要がある。それこそがペラゴスというモデルの存在意義であり、ウルトラはそのオリジナルの方程式を最大限に押し広げたバージョンなのだ。